初心者向けのダンジョンでウロウロしていたある日のこと
いつもは人がいないのに、あるいはいたとしてもすごくつよい人がすごいはやさで通り過ぎていくだけなのに、そうじゃない人がいる!
レベルもそう離れてない! :dot_th_power_item:…あれはパーティを組んでいるマーク!
まってまって、一緒に遊びたい、でも行ってしまう、また会える保証はない……思わず無言でパーティ加入申請をしていた
無言申請はマナー違反
それが常識なのは知っていたから勢いで押してしまった罪悪感と、一緒に遊びたいと思うプレイヤーを見つけた興奮とで、心臓はバクバクだった
きっと顔だって真っ赤だっただろう
数秒の後、申請中のウィンドウが消えた
「よろしくお願いします^^」
チャット欄を見て、ホッとした
そのパーティの二人は、快く迎えてくれたのだ
たまにチャットをしながら、モンスターを狩り、アイテムを集めて、塔を登った
初心者向けとは言え、塔の上の方のモンスターは僕らには強すぎた
それ以上進むのが難しいことを察して、塔の攻略はそこまでになった
その後は安全エリアでただチャットを楽しんだ
本当になんてことない話、それでも嬉しかったのを覚えている
落ちる前にフレンド登録をした
一人はそれっきりログインしているところを見なかったけれど、もう一人とはその後もずっと遊んだ
年齢も性別も知らないし聞かない、リアルのことなんて何一つ知らない、何ならキャラクター名で呼び合うことさえ滅多にない
そんな不思議な関係だったけれど、ログインして相手がいたら、それか相手がログインしたら、まずはパーティ申請を飛ばすか飛んでくるかだった
プレイスタイルが合っていたんだと思う
アイテムを一緒に集めたり、装備を強化して一喜一憂したり、露店で何がいくらで売れただとか報告しあったり
そのフレはギルドを作って、僕は入った
ギルメンは二人のサブキャラばっかりだった
あまり他の人とは遊ばなかった
理由は特になかった
僕はしばらく長い間、ログインしなかった
久しぶりにログインしたとき、フレはオフラインだった
それまでも互いに一週間だとか、それくらいログインしなくなることはあった
ログインしたら「久しぶり」ってちょっとだけレベルの上がったフレが言ってくれるか、あるいはその反対だった
ギルドウィンドウのフレの最終ログイン日はずっと変わらなかった
たまたまログインしない時期が重なったんだ、と思いたかった
ログインしたら最終ログイン日を確認するのが癖になった
ずっとログインしなかったのは僕の方なのに、フレがログインする日をずっと待っていた
フレのキャラ名で検索したら、知らないゲームの知らないキャラクターが出てくるだけだった
そのゲームが好きだったんだろうな、ということをこの時初めて知った
とうとう、そのネトゲのサービス終了のお知らせが発表されてしまった
実質的な、フレと再会するチャンスのタイムリミットだった
フレがログインしなくなってから、たまに他の人とレベル上げパーティを組んだり公式イベントに参加したりはしたけれども、僕はソロプレイヤーだった
フレがログインしなくなってから何年も経っていた
サービス終了日は平日で、しかし講義は昼からだったので最後の祭りに参加できた
無駄だとわかっていても、何度もフレンドウィンドウを開閉してしまう
奇跡は……起こらなかった
もしも、もしもあのとき、このゲームから離れなかったら
もう少し早く戻る気になっていたら
せめて「しばらくお休みする」と言ってから離れたならば
一体何度思ったことだろう
最後のチャットが何かだったかも、今では忘れてしまった
いや、普通に「おつかれ〜」だとか、いつものやりとりだった気もする
僕だってハンドルネームを変えてしまった
このネットの海から探そうにも、あまりにも情報が少なすぎる
生きているかどうかすら
もしかしたら、当時のキャラ名とギルド名を書けば……
でも、今までずっとそれをしてこなかったし、今だってしない
やましいわけもないのに、理由は上手く説明できない
なんでだろうね
そしてこれからも、ふとした時によぎる
初めてのネトゲの思い出だ
おしまい