子どもの頃は両親と同じ研究者になろうと思っていた弟(監督)。姉が四浪してまで医学部へ入ったのに対して違う学部へ進学し、統合失調症を発症した姉を置いて関東で就職。研究職ではなかった。弟に対する父親の期待はもしかすると姉ほどにはなかったのかも知れないが、親の期待に反した道を選び、親元を離れた。
姉が統合失調症を発症した原因を追求する映画ではないと冒頭で断っておきながら、原因の一部が父親にあると監督が考えていることは映画のトーンから明らかで、発症後間もない姉に対しても父親への怒りはあるだろうといった言葉を投げている(これに対して姉は応えていない)。意図的な編集かどうかわからないが、母親や叔母へのインタビューがあるのに対して、父親との対話は最後の最後にならないと出てこない。
姉の代わりに弟が医学部へ進学して研究職に就き、両親と姉と生活を共にしていたら。精神科を受診させるのを親任せにせず、弟が実家へ迎えに行っていたら。父親との対話をもっと重ねていたら。どうすればよかったか。弟の人生を犠牲にしたら、もしかしたら姉はもっと早く治療を受けられたかも知れない。そうしたらよかったか。誰にとってよかったことになるのか。