$[font.serif **白百合に捧ぐために**] #二次創作小説 #NIKKE
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「強度を高めることが目的のコーティングなら、こんな風に何色も使って時間をかける必要は無いだろう」
「戦化粧とは、自身の戦意を高揚させるための物。ネイルハンマーもその一種ですわ。鏡が無くとも自分の目で見ることができますもの」
「……ネイルアートのことか?」
 クラウンが、私の爪を塗る手を止めて目を逸らす。
「も、もちろん分かっておりましたわ? 貴女の知識をテストしただけですわ」
 王国に来る直前の戦闘で割れてしまっていた爪を、見咎められたのがきっかけだった。
 人工爪甲の補修くらい後で自分でやると一度は断ったのだが、民の健康を気遣うのも王の努めだのお嬢様のご厚意を無碍にするのかだのと二人がかりで詰め寄られ、最終的に、昼食をチャイムが用意している間に終わらせると言うので任せることにしたのだ。
「……戦意高揚、か」
「どうかされましたか?」
「いや」
 爪に塗られていく白ときらきらと輝く粒子の混ざった薄紫は、どこか
彼女(・・)を思わせる色だ。
「確かにこれなら、ラプチャーどもを殲滅するための気力が湧きそうだと思ってな」
「それはなによりですわ」
 クラウンが、そう相槌を打つのと同時に、私の爪を塗り終えて筆を置いた。
「終わりましたわ。あとはしばらく紫外線に当てれば硬化します」
「分かった。それで、UVライトはどこにあるんだ?」
「ありませんわ」
「何? ……――いや、すまない」
 彼女の方から爪を塗らせてほしいと言ったからには道具は全て揃っているのだろうと思い込んでしまっていたが、この場所も、資源の乏しい地上であることには変わりない。
 そんな状況下でもこうして歓待してくれることに感謝こそすれ、足りないものがあるからと文句を言うなど、許されることではなかった。
「今日は良いお天気ですから、城の中庭で日光に曝せば五分ほどで乾くはずですわ。食事をテーブルに並べ終わったら呼びに参ります」
「ありがとう。恩に着る」
 
 人類が地上で自由に日の光を浴びられるようになるその日まで、私の戦いは終わらない。