私はシネコンの中の小さなスクリーンでサメ映画の始まるのを待つ。
映画内映画の撮影場面が始まる。キャラの濃そうな監督が、橋の下で長辺を縦にした長方形に漏斗を垂直にくっつけたような白い物体に、人々が過去の後悔でおびき寄せられ吸い込まれてしまうシーンを撮っていた。人々は吸い込まれてすぐ死ぬのではなく、その生命の中でじっくり溶かされるか、首をつって自殺するという。
今その白い物体と相対しているのはがんちゃん演じる青年である。こんなちゃちめな映画にがんちゃんが…！と私は興奮する。青年はこの白い物体を退治しようとするが、一度はうまく中に入れず、白い物体のことが頭から離れなくなる。最初はしっかりと見えた白い物体も、二度目に橋の下に訪れたときは気配はあるのに見えなくなり、青年は焦りを増加させる。
場面は変わり、小学校の教室で夏休みの宿題や自習をする子どもに混じって、先ほどとは別の青年がイライラしながら漢字やひらがなを書く練習をしている。彼が帰る途中で天気が急に悪くなる。突然気配を感じてバットを振り回すと見えない何かに当たる。同時刻、世界中で飛行機の事故や人の頭が食いちぎられる。

その事故は空飛ぶサメによるもので、しかもサメはほとんどの人間に視認できない。総数もどこにいるかも把握できず、外に出ると突然死んでしまう状況で、社会は停止する。みなとにかく扉と窓とカーテンを閉め、引きこもる。
ある保育園は帰れなくなった保育士や子どもがいることにより一応開いているが、子どもが亡くなったので退園します、という連絡ばかり。
がんちゃん演じる青年はサメが見える人間だったが、撮っている映画が気になりサメを避けながら撮影現場に向かうも監督が食べられてしまい、白い長方形の物体も相変わらず見えなくて途方に暮れる。
ある四姉妹は命からがら逃げ帰るも、夜中に扉を叩く音に扉を開けてしまい、見えないサメを家に入れて全滅してしまう。
ある男性はサメが出る前に知り合った男性と恋に落ちるが、実は相手は自分の兄で、自分好みの顔に整形していたことを、サメにより瀕死の状態になった兄に告げられる。
映画は途中でだいぶ席が空いたので、私は見やすい席へ移動する。場内が明るくなると真後ろに俳優たちが立っていて、客の首にガオー！と噛みつくようなパフォーマンスをし、和やかな雰囲気になった。